■姫と下僕の物語03_2
<崩壊篇- Warning!!! グロ注意警報>


■三人称 時代物パラレル話つづき
<崩壊篇- Warning!!! グロ注意警報>

※このセンテンスには、抵抗感を覚える表現が含まれる可能性があります。
グロ及び(脚本内ですが)キャラを傷つける表現が苦手な方はスルー願います。






馬に乗った屈強な男たちに護られるように、夜の中を花嫁の女車が行く。
周囲を、女軍から選ばれた、手練れの娘たちが付き従う。
月も出ない闇夜に、男たちの掲げる松明の火だけが
赤々と周囲の木々に陰影を映し出す。
それは何処か黄泉への旅路にも似た―――――――――――――――――――。

……………

その時、わずかに梢を揺らした気配に、先頭を行く首領が薄く半眼を閃めかせた。

恐るべき意思の伝達力で、女車もろとも騎馬の者が歩みを止める。
はたして、列の行く手に片膝を付き、平伏したのは蓮だった。


「なんだ」


首領は口の中で馬鹿め、と罵った。


「――――――――――――――俺を、御伴い下さい」


蓮は平伏したまま、強い声を張り上げた。
首領が眉間に深い皺を刻む。


「ならん、村上へ戻れ」


言い捨てて、手綱を引き馬の頭を廻らせる。


「お恐れながら自分は姫の一の手下、どこまでも付き従わずにはおれません。
お伴い下さい」


首領はちらりと気遣わしそうに女車を振り返り、
馬を操って蓮のまえにふさがった。


「………おまえは、既に手下などではないだろうが」


馬上から鞭を差し延べて、蓮の頤を持ち上げる。


「………いかに奔放な海の民とはいえ、京の貴族に輿入れさせる娘に
男をつけるわけにはいくか」


蓮の表情は変わらない。


「京子の守護は女軍から手練を幾足連れておる、わかったらさっさと帰れ」


そのまま、蓮を追い払うように鞭をひとふりして手綱を引く。
行列が再び緩やかに動き出した。

とりつくしまもない。

蓮の頭の中で、情景がぐるぐるとまわり始めた。
元々、伴えと言い、直ぐに許されるとは思ってはいない。


「…………おとこ、でなければ………」


蓮は、低くささやいた。
小さな声なのに、森の中に妙に響いた。
そこに潜んだ不吉な切実さに、首領がふりかえり、
無表情だった男たちまでがそっと目交ぜをした。


「―――――――――――――――― 男でなければ、お伴い下さるか……… 」


蓮は、首領を睨みつけるようにみつめたまま、身じろぎをした。
体を起こし、ゆっくりとかたひざを立て、帯を緩めて前をくつろげる。
何をするかと首領が気色ばむと、彼は打って変わった素早い動作で
おのれを掴みあげ、止める間もなく魔法のようにその手に現れた短刀を一閃した。

闇に、血がしぶく。
手練のはずのおんなたちが思わず悲鳴をあげた。
蓮は酷い手負いの状態で、風のように動き、
一番近くで竦んだ伴人の一人から松明を奪い取った。
そのまま、自らが負ったそこに炎をあて、止血を行う。
押さえきれず、唇からもれる呻き。肉の焦げる………残酷な。
松明の明かりが、苦痛にひき歪んで蒼白な蓮の美貌を照らした。
噛み締めた唇から血が滲み、その姿はそんな際というのにひどく不埒な印象を与えた。


「………おとこ…――――――――――――は捨てます、…………だから」


蓮は荒い息を吐いて、底光りする目で首領を睨んだ。


「………おともない……くだ…―――――――――――――」


がくり、と膝をつき、ゆっくり倒れふす体を、
駆け寄った伴人の一人が受け止め、首領を振り仰いだ。
悲愴な表情で、みなが首領を見つめる。
彼は、酷く苦々しい顔をすると、やむを得ないというようにうなづいた。

気遣わしげに女車を覗く。
気を失いでもしているかと思えば、京子は、ただ前を見ていた。
何を思うか窺い知る事の出来ない顔をして……。
取り乱しも、駆け出しもせずに。

父は、それで、娘にかけた呪縛を思い出した。


(…………蓮のいのちが惜しければ………)


そっと車を離れる。

京子の中で、何かが壊れた。
かけがえのないひとが、自分ゆえに……………。

そんなつもりは、微塵もなかった、なのに。

一体、何がどうして…こんな、取り返しのつかないことに。

伴人の幾人かが、隊を離れて蓮の傍に残るようだった。
戸板の手配と………

蓮が失った体の一部。
自分をいとしんでくれた…彼の、かけがえない体の。

京子は叫んでいた。
声にならないまま、顔色をかえないまま。
外に出る事を封じられた慟哭は、少女の心と体の均衡を
二度と取り返しのつかない分だけ、ほんの少し崩した。
少女の心の何処が、失われた蓮の一部とともに、ゆっくりと死んでいく。


蓮を追い詰めた自分自身への呪詛を吐き散らして。


 
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