無限抱擁05■シャチョーの引導
社氏視点
「ほんでオマエラは俺のいねートコで一体何コソコソしてやがった?」
不機嫌を絵に描いたような社長の前で、命じられるままソファに腰掛けうなだれる。
いっそ床に土下座したい心境だった。
「 サワラ 」
隣の椹主任が飛び上がった。
「 ヤシロ 」
(ひーーーーーーーーっっっ)
俺にしたって状況は同じようなモノだった。ただただ平伏するしかできない。
「 ……… 蓮 」
「……―――――すみませんでした、社長」
静かな声。
「―――――謝れっつってんじゃねーんだよ、この状況を説明しろと言ってる」
鋭い社長の目と、むしろ不気味なくらいにしんとした蓮の目が正面からぶつかり合う。
社長の手には、蓮とキョーコちゃんが抱き合うショットが数枚握られていた。
蓮は、少しいいよどんで口ごもり…
「…―――俺の個人的な感情の事で、会社にもあの子にもご迷惑をおかけして申し訳ありません」
…とだけ言った。
「―――――ふん――――」
写真はどうやら、フリーランスのカメラマンの手に拠るもので…
社長が握りつぶしたらしかった。
「個人的な感情、ね…―――」
コツコツとゆっくり部屋の中を歩く。
「ブンヤに探られたら致命的なことはあるか」
社長は手で写真をもてあそびながらぼそりと言った。
思わずギクリとしてしまう。社長はなにもかもを見通したような目で、小さく吐息をついた。
「―――――わかった…」
バサリ、と机に写真を投げる。
「当分うるせーだろうし、あの子を暫く遠くにやっとこう。ダークムーンがクランクアップしたんなら丁度良い
蓮はあの子の半径50b以内に進入禁止だ」
「―――――っ」
動揺した蓮がはじかれたように顔をあげた。
「守れなきゃあの子は解雇だ」
にべもなく言い放つ社長に、蓮の顔が青ざめた。
場違いにも程があるが、俺は蓮のその様子を見て、
蓮がキョーコちゃんをどれだけ想っているかをあらためて思い知った。
「…あの子は…なにも―――――っ」
「会社に与えた損失を理解しろよ、敦賀蓮。そりゃおまえの商品価値に支払った代償だ。
俺の個人的な感情はともかくLMEにとってあの子はまだそこまでの人材じゃない。
せっかく育とうとしてるこの世界から―――――」
社長は蓮の言い分をひったくって厳しい声で言った。
「追い出すも出さないもお前次第だ」
それだけで、言いたい事は全てだ、というように社長はアゴをしゃくった。
退出の合図だ。
「…社もこれ以上迂闊な事はするなよ…―――――」
しっかりクギをさされることは忘れられなかった。