■千夜一夜物語_パラレルエロ01


<初めての『証だて』篇>


「さぁ、自分で脱げ」

王は意地悪に笑った。
胸元をかき合わせたシェヘラザードは泣きそうな顔をして唇をかみしめる。

「神の名の下の誓約だ、証はされねばならない」

残酷な厳しい物言いに、少女は観念した。


***


一枚、一枚と床にすべりおとし、少女は着ているものを全て脱いだ。
男性の目に触れさせた事のない肌が桜色に上気する。
かたちのよい、小ぶりの乳房。白く夜に浮かぶ滑らかな肌。
王の目が情欲にぬめって自分の裸体にからみつくのを、気が遠くなるような思いで彼女は耐えた。

上目遣いにおそるおそる王を伺うと、赤い唇をゆがめて笑っている。

「もう…よろしいでしょうか…?」

少女が言うと、彼は一層愉しそうに目を眇めた。

「なにがだ」

「証は…成ったと…」

「…馬鹿を言え」

王の生々しい声音に、はっと顔をあげる。
王はいつのまにか、目の前に立っていた。

軽々と抱き上げられ、褥に運ばれ、放り投げられる。
はずみで大きく開いてしまった脚に、慌てて少女は起き上がった。

「閉じるな」

怖い声の命令。

「つきのもののあかしは、そこを確かめねば成らぬではないか」

含み笑い。
シェヘラザードは青ざめた。

「安心しろ、犯しはしない。賭けだからな… しかし」

「…この中に、月の物をかくす手立てが講じられていないかは確かめねばならぬ」

王の手が、少女の足首を掴み、折りたたむように掬い上げた。
悲鳴。

一番恥ずかしいところを、一番いまいとおしいと思っているひとに。

(―――――――――――――!!)

王の指がそこを探る。少女は全身に火がつくかのような羞恥に燃えた。
確かめるのは口実だということを隠しもしない王の淫らな指は、
シェヘラザードの未成熟な突起をゆっくりと撫で、いたぶった。
はじめての感覚、そこをさわられることで、そんな感触を味わうとは全く知らない少女の…恐慌。
王は、息を荒くして、少女を押さえ込み、焦らず飽かず同じ場所を弄び続けた。
愉しい。花嫁にして、すぐに犯してしまうよりも愉しい遊びに思えた。

「…おや、どうしたことだろう……」

意地悪な、笑い声。

「俺の指が…濡れてしまった」

見詰め合う。
シェヘラザードには王が何を言っているのか、わからない。

「…しらないのか……」

王は、少女の無垢に驚き、しばし感動するような思いにとらわれた。
そのまま、どうしてこれほど、と思うような、残酷な気分になる。
指を這わせ、淫猥な音をひびかせると、王は少女の耳に口をつけて囁いた。

「聞け…このいやらしい音を。教えてやろう、女は男を欲するとここをこのように濡らすのだ。
おまえの体はいま、俺を求めてくちをひらきはじめている………妻でもないくせに」

触れられた部分から痺れるような官能と、自分の体の変化、
王の蔑みに満ちた視線と声音が少女を深く傷つけた。
かぶさってくる王の胸に手をつっぱり、弱々しくおしのけようと首を振る。

「ちがいます…そんなみだらな」

…ではこの体はなんとする。せつなそうに乱れるその息はなんだ。
なぜそんないやらしい顔をして俺を見る。思い出せ…

俺に抱かれたあの夜の花嫁とおまえのいまの痴態はどこが違う。


(浅ましい、おんなめ………)


(おやめください――――――――――――――――――――――)

少女は噎び泣いた。かなしくて、苦しくて。
王はかまわずシェヘラザードを弄び続ける。
大きく開かされた白い脚が、淫靡に跳ねた。

こんなはずではなかった。花嫁でもないのに、こんなふうに。

王の指がぐるりと、そこをなぞるように蠢いた。
ゆっくりと、押し入ってくる異物感。
シェヘラザードはびくりと腰をひき、かすれた声をあげ、
わずかに染みる痛みに顔をしかめた。

はじめて、他人の手でそんなところを触られる異常事態。
王の指が、からだのなかで。

王は、自分の目が火を噴きそうなくらいに熱くなっているのを感じた。
たまらない。

( あ… ―――――あっ )

さらにゆっくりと、出し入れが繰り返される。
別のところに触れられていたときほど強い刺激ではないが、
それが指を男根に見立てた、まぐわいを模した行為であることに気付き
シェヘラザードを恐慌に陥れた。
王は愉しそうに含み笑いをもらした。


「……どうした、 ん…―――――――」


( そんなに締めるな……… )


おまえのここは…………  
とても、使い勝手がよさそうだ。

…とても―――――――――――。


悪魔のように、残酷に美しく笑う王。こんな際でも、王をこんなにも。
少女の心臓がやぶれそうに痛んだ。

いやだ…。 いやだ、こんなのは嫌だ…。

涙に濡れた目で唇を引き結ぶと、シェヘラザードは力を振り絞って足をひき、
思い切り王の肩を蹴りつけた。
シェヘラザードをいたぶるのに夢中でふいをつかれた王が、
思わず体を浮かせて褥に手をつき、少女の体から手を離す。

少女はその隙をついて王の下から這い出し、
肩で息をしながら強い目で王を睨んだ。

「証は…っ、もう、なされていますっ…」

涙がこぼれる。少女は震えながら脱いだ衣をかき寄せ、胸に抱き、
ほぼ全裸のそのまま、くるりと踵をかえし駆け出した。
王は、あっけにとられて逃げ去る少女を見た。

(逃げた…)

王である自分に蹴りをくれて。
快感にむせんでいたはずの女が。それをふりきって。

( あなた…… )

かつての正妃と、妃たちの乱交。
下男をひきいれ、痴態の限りを繰り広げていた肉欲の女たち。
気付けば血みどろの肉片の中、ひとり立ち尽くしていた。

その後の2999人の花嫁も似たようなものだった。
処女であっても己に抱かれて喘ぎを覚えれば、そのうちに体は解ける。
体が解ければ、心も解ける。
女などみなそんなものだ。

だから殺した。殺し続けた。

………なのに。

快感から逃げた。あんなちっぽけな少女が。

王は知らず、唇を引き結んで、シェヘラザードの消えた方角を見つめた。
心の中の衝撃の理由は、彼にはわからない。



 
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